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「天穂のサクナヒメ」セリフに見る作りこみ要素

稲作ゲーとして名高い「天穂のサクナヒメ」。

僕もついにクリアすることができて

改めてこの素晴らしいゲームに出会うことができて良かったと

製作サイドには感謝の一言に尽きる。

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大任を終えたサクナヒメ。彼女の「守りたい」気持ちが大龍を降した

作りこまれている稲作の内容、スタイリッシュなアクションはもちろん

世界観も大好きだ。神社検定で合格するほど日本神話が好きなので

サクナヒメのモデルがコノハナサクヤヒメだと面白いなとか

神々が人間臭いところなどはわが国の神様らしくて面白いなとか

神話としても楽しめている。

 

「弑する」の重大さとは

 

ほう、と瞠目したところが、サクナヒメのラストバトルのセリフ

「弑し奉る!」という言葉である。

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ボスに対して決然と農具を向けるサクナヒメ

「弑する」というのは「目上の者を殺す」という意味である。

これは非常に重要な言葉で、君臣の関係がしっかりしている時代は特にそうだ。

どのように重要なのか。

 

弑逆は最も嫌悪される「大罪」

 

例えばこんな話がある。

支那春秋時代、晋の宰相・趙盾は君主の晋公に暗殺されかかり

やむを得ず亡命しようと国境付近まで逃げ延びた。

亡命とは、その名の通り「その国の民として存在しなくなる」ということだから

重大な決断であった。

趙盾が祖国を捨てんとした時、急報が飛び込んできた。

趙盾の一族の趙穿が晋公を殺害したのである。

そのため、趙盾を殺そうという者はいなくなり

彼は宰相に復帰した。ところがある日、朝廷に出仕したところ

廷内の掲示

「趙盾、その君を弑す」と書かれているではないか。

趙盾はすぐに史官を呼び、晋公を殺したのは自分ではないと釈明した。

だが、史官は「あなたは亡命しようとしましたが、国境を越えてはいません。

ゆえにあなたは宰相のままなのです。にも拘わらず、その君主を殺害した者が

明らかであるのに、あなたは処罰しようとしない。だからあなたが弑したのと

同じなのです」と述べた。

趙盾は、この史官に反論できなかった。

「われの想い、自らこの憂いを残す」と言い残した。

なぜ趙盾がそこまで弑逆の汚名を嫌ったか。

趙盾は奸臣ではない。温情篤実の人である。そのため、君主に殺される前に

自ら国を去ろうと決めた。そこへ思わぬ事件が起きて復権したが

趙穿は、自分のために君主を殺害せざるを得なかった。

彼を処罰するのは、情の心に反する。そのため、自分が「君主殺し」の汚名を

被るしかないと判断したのだ。

だが、この判断は彼の子・趙朔の代に災難となって降りかかる。

趙盾の罪をもって、趙家はほぼ皆殺しにされてしまうからだ。

それほどまでに君主殺しというのは忌み嫌われることなのである。

 

全ての覚悟を決めた一言

 

話を元に戻し

サクナヒメは、自分より格上の、大龍(オオミヅチ)に対し

「弑し奉る」という言葉、目上のオオミヅチを殺すと公言し

その一方で「奉る」と最高敬語を使っている。

これは、「あなたは私より格上で偉大な神様だけれども

やむを得ない理由により殺します」という啖呵である。

こんなことを言う神はほとんどいない。いかにサクナヒメが

神として、並外れているかという現れでもあろう。

この一言をもってして、僕は心底感心した。

 

ところで、このゲームのテーマ曲「ヤナト田植歌・巫ーかみなぎー」が配信中だ。


ヤナト田植唄・巫 ―かみなぎ―(天穂のサクナヒメ主題歌)

 

歌っているのはシンガーソングライターの朝倉さやさん。

山形出身で、民謡や民族音楽の作品が多く、透明感のある歌い方が

心に響いてくる。日本の原風景とはこうなのだろうと

懐かしさすら感じる、素晴らしい曲となっている。

ぜひ、多くの方に聞いていただきたい一曲だ。