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アニメ「WUG」の失敗、続編で巻き返しを

仙台を舞台にしたアニメ「Wake Up, Girls!」(略称、WUG)の続編が
9月に迫り、ライブやイベントなどでそわそわしているファンも
多いのではないだろうか。
そんなファンに、水を差すような話で恐縮だが、今回は
「アニメとしてのWUGは地域活性化に失敗した」と断じた上でその要因について論じたい。
続編を見る前に、一期の失敗を振り返るべきだと思うからだ。
そもそもWUGは、東日本大震災で大きな被害を受けた
宮城県を応援しようという意図でつくられた作品である。
そのため、同作品では石巻市塩釜市津波の傷跡が残る気仙沼市が描かれている。
同作品は、まず劇場版を公開し、それから本編をテレビで放送するといった
ユニークな手法を採用した。
ストーリーは、アイドルを目指す7人の少女が仙台を舞台に
さまざまな壁にぶつかりながらも、成長していくというもの。
かんなぎ」「フラクタル」などで監督を務めた山本寛氏が再び指揮をとり
製作陣が非常に豪華だということで、鳴り物入りで公開された。


蓋を開けてみると、その出来たるや「100年の恋も冷める」ほどであった。
特に問題視されたのは作画である。ダンスシーンはもちろん
キャラの体型が崩壊寸前に陥るなど、リアルタイムで実際に視聴していた人からも
さすがに擁護の声が聞かれなかった。
また、ストーリーに関しても劇場版を見ていないとテレビ放送版はわからない
という声もあり、大変不評であった。

放映前には「聖地巡礼展」が開催され大きな賑わいとなったが…。


ところで単純にDVD/Blu-rayの売り上げ(15年7月現在)を見てみると


○劇場版『Wake Up, Girls!七人のアイドル』
巻数 初動  累計 発売日
限定 5,523 8,924 14.02.28
劇限 3,075 *,*** 14.02.28 ※シアター限定版


○Wake Up, Girls! 【全6巻】
巻数 初動  累計 発売日
01巻 2,959 4,057 14.03.28
02巻 1,955 2,394 14.05.16
03巻 1,820 2,283 14.05.23
04巻 1,845 2,204 14.06.27
05巻 1,791 2,159 14.07.25
06巻 1,721 2,193 14.08.22


ちなみにこの時のセールストップ作品は「未確認で進行形」であった。
1巻だけでおよそ8500枚の売り上げである。
WUGも、実は劇場版ではそこそこ売れているため
この勢いをテレビ放送版まで持っていければ、ここまで賛否両論渦巻くことは
なかったのであるが・・・。


そんなWUG、仙台のためという名目もあったため
地元商店街などにはパネルを展示し、仙台の企業とのコラボには
プレミアムをつけるなどして製作側も当初は仙台を拠点に、という
考えでいたようで、地元まちづくり関係者も期待を寄せていた。
だが、いわゆる「売り込み期間」はテレビアニメ放送が始まるあたりまでで
それ以降は仙台での売り出しも少しずつなくなり
一般市民が気軽に参加できるオープンイベントへの参加は
極めて少なくなった。最近では仙台麻婆焼きそばPR大使就任が
実績として挙げられるが、ライブイベントやグッズお渡し会などの
クローズドなイベントに特化するようになり、ご当地アニメではなく
アイドルとしてのWUGをセールスすることに製作側は大きく舵を切ったようだ。
従って、地域活性化を目指したアニメ版のWUGは失敗したと断定せざるを得ないのが現状である。



失敗した要因をまとめると
1、作品のクオリティが壊滅的だった。
2、劇場版は仙台市からも評判が高く、それを武器に一気に地域へ売り込みを
かけるべきだったところを、タイミングを逸した。
3、製作側の硬化(というよりコラボに対しシビアになった)
4、作品の方向性(作品の『核』の不安定さなど)
5、製作側と「聖地」側との意思疎通不足
などである。


WUGファンのことをワグナーと称するが、このワグナーについても
地元でイベントを企画し、人を呼びたいと思っていても
現実には参加者は内輪だけであったり、地元からは人が集まらないなどが多発しているようである。
実際、仙台でオフィシャルイベントを実施しても、地元のファンより県外から来てくれるファンが
多いのが現状である。また、パネルを置いても場所によっては人が全然来ない
スタンプラリーを実施しても、景品が余ってしまうといった現実に
地元勢は落胆を隠しきれていない。


だが、続編を製作する以上は復活の機会は訪れる。
そこで、いくつかの「復活案」を提案したい。


1、作品のクオリティを段違いに引き上げること
テレビ放送が酷すぎたのは事実であるが
幸いにも作画などの「失敗」部分についてはBlu-rayで大幅な修正が入った結果
視聴者の評判は悪くないようである。
続編のクオリティを上げ、一期視聴への取っ掛かりとなれば
新規ファンを獲得することは決して難しいことではない。


2、物語の「核」をしっかり定めること
一期放送では、「舞台を仙台」としているものの
その後、アイドルとしてのWUGが活動している事実上の拠点は東京である。
そこでぜひ、アニメ一話冒頭の丹下社長の言葉を思い出してほしいのだ。
何でも東京、東京ではなく、ぜひ仙台での露出を多くしてほしい。
そのためには、製作しているのは東京のスタジオでも、仙台でアンテナを常に伸ばして
オープンイベントやまちづくり事業に積極的に参画していくことが大事だろう。
一例を挙げると、「たまゆら」の舞台となった広島県竹原市では
「マッサン」効果で観光客が増えたのか、と記者の問いに
たまゆらの方が多いです」と即答したとのことである*1
また、アニメ「花咲くいろは」の舞台となった石川県の湯涌温泉でも
観光協会が主催して作中に登場する「ぼんぼり祭り」を本当に開催。
夜の温泉街にぼんぼりの仄かな明るさがマッチし、実に幻想的だ。




ぼんぼり祭りは今年で5回目を数える(上、2013年撮影)。のと鉄道のラッピング電車(下)。物販売り上げも好調だ。


ぼんぼり祭りが開催される10月、湯涌温泉の入り込み客数はおよそ10%増加するという。
作品は作品で◯◯を中心に活動しているということを明確にすることで
行政も民間も、それに投資しやすいという側面が大きい。
もし、WUGの続編が「あくまで活動の拠点は仙台」であることを
明確にすれば、それが行政や聖地関係者に与える安心感は格別であろう。


3、地域連携をしっかり行うこと
WUGがロケハンからイベント開催まで、それをフォローし続けたのは
せんだい・宮城フィルムコミッション(FC)である。
だが、FCはあくまで行政の外郭団体。その支援には制約があることを忘れてはならない。
そこで、民間レベルでの連携をもっと密にしなければならないのである。
仙台には大規模な商店街振興組合があり、商工会議所も大きな力を持っている。
聖地のファンは、WUGと地域を盛り上げようと意欲的でもある。
これほどの土壌が揃っていながら、製作側はそれらを積極的に生かそうとしなかった。
もちろん、これらは聖地側にも反省すべき点がある。
聖地側は、組織化してのWUGの活用ができなかった。そのため
製作側と交渉するにあたっても、具体的な方策を見出すことができず
こちら側の現状を詳らかにできていなかった。
それもあって製作側では仙台の台所事情や商習慣などについて
よく知らないまま商品化、イベント展開にハードルを設けてしまい
それが温度差を生んだ。
つまり地域連携の面で言えば、双方ともに反省するべき点はあるということである。
ここでまた一例を挙げたい。
アニメ「ガールズ&パンツァー」は茨城県大洗町地域活性化としてモデルケースとなっている。
だが、最初はまさに壁の連続であった。株式会社Oaraiクリエイティブ・マネジメントの
常磐良彦代表取締役は、今でこそ大洗活性化の名プレイヤーのように見えるが
実際に彼をバックアップしたのは、大洗商工会会長を務める
山東茨城県議会議員であった。そこへ商工会青年部の大里明氏らが集まり「勝手にガルパン応援団」を結成。
バンダイビジュアルの杉山潔プロデューサーとともに、版権商品の認可簡素化や
ラッピング電車の制作費と広告費を相殺するなど、実にプロらしい手法で
大洗町ガルパン色に染めていくのである。



パネルと写る小谷亮大洗町長(右から2人目)。行政と民間がタッグを組んだ成功事例だ。


今や杉山プロデューサーは「大洗大使」と呼ばれ、毎月のように町内に出没するようだ。
製作側と聖地側がいかに連携を強めていくかが、作品を地域活性化
生かす成功要因の1つといえるだろう。


4、周知・広報活動を徹底的に行うこと
現在、仙台市民で「Wake Up, Girls!」を知っていますか?と
聞いて知っていると答える人はどれほどいるだろうか。
劇場版は「仙台シネマ」に認定され、プロモーションは十分だと
製作側は思っているかもしれないが、まったくそんなことはない。
仙台市民に対する知名度を上げるためには、もっとパブリックな露出を
増やさなくてはならなかった。
仙台市消防局とのコラボがあったが、まさにその取り組みを広げれば良いのである。
仙台はイベントが豊富だ。定禅寺ジャズフェスもあれば、青葉祭りもある。
せんくら、アカペラフェスなど様々なイベントがまちなかで実施されている。
そこに入り込む余地は当然ながらあるはずだし、何万人という観客にWUGの存在を知ってもらう
大きな機会となるだろう。
さらに大胆な方法としては、地元の新聞社である河北新報社を巻き込むという手もありだ。
アニメ「宇宙兄弟」は、メディアを多用した作品としても知られている。
製作委員会には読売テレビ日本テレビ朝日新聞社などの各メディアが名を連ね
メディアミックスの展開を行っている。メディア活用の成功事例といえよう。


5、カネありきの展開を見直すこと
WUGに限ったことではなく、アイドルアニメというのは
とにかくお金がかかる。WUGの場合、その単価が大きいことも課題だ。
ライブやDVDはもちろん、コラボグッズ、ファンクラブ・・・何をするにも
お金がかかってしまう。実はワグナーの年齢層は低く学生も多い。
それらが単価が万を超えるグッズを買えるだろうか。
「安くしすぎてペイできるのか」と指摘されるかもしれないが
そこは未来への投資であると割り切って、製作側で1つ抱えていただきたい。
また単価を大きくすることより、薄利多売型にしたほうがターゲットには最適かと思われる。
確かに、この手の商品は形が見えないだけに、「鶏が先か卵が先か」論になってしまうのであるが。
しかし商売臭を感じ取ると、ファンは一気に離れてしまうのも事実である。
いかにファンを大事にしているということをアピールしつつ
利益を生む構造にするかというのは、極めて巧妙な戦術が必要だ。

アニメ「たまこまーけっと」の舞台、出町柳枡形商店街(京都市)。小さい商店街だが定期的にファンが訪れる。




同作品の主人公・北白川たまこを模した看板。コラボグッズのTシャツは1500円と格安で誘客への純粋な思いが伝わる。



これまで書き連ねてきたが、仙台市民としてアニメで地元が賑わうことは
とても喜ばしいことだし、多くの仙台市民にWUGに親しんでもらいたい。
そのため、現在のWUGの課題について指摘し、ワグナーの皆様と
問題点を共有できれば、製作側とワグナーとの間で新しい信頼関係が構築できるかもしれない。
その期待を込めて、あえて厳しい内容の記事を投稿する次第である。
もちろん、僕の指摘がすべて正しいとは思わないし、どこかで勘違いや誤りもあると思う。
或いは無知故にどこかで成功している部分を見落としている部分もあろう。
根拠のあるご指摘をいただければ、当社記事内でぜひ反映させていきたいと思う。

*1:「広島・竹原に観光客が増えたのは『マッサン』の放映の影響ですか?」 → 「いいえ、アニメ『たまゆら』の方が大きいです」http://blog.esuteru.com/archives/8132521.html