白雉日報社公式ブログ

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海軍「艦名のネタつきそうや…」→学者「めっちゃあるで」

本日は全国的に雨となり、ところによっては大雨で

台風などで被害があったところは、さらなる土砂災害が危惧される。

特に九州にお住まいの方々はどうか気を付けていただきたい。

このぐずつく天気はしばらく続くと予想されている。

まさに秋雨前線到来といえよう。

 

自然現象を検索したら艦これで埋め尽くされた!

 

天気といえば、以前気象庁の荒木健太郎氏が

「巻雲」の画像を調べようと検索したところ、女の子の画像がたくさん出てきて

大変びっくりしたという出来事があった。

www.itmedia.co.jp

ブラウザゲーム艦隊これくしょんー艦これー」は、実在の帝国海軍の軍艦を

擬人化したゲームで、サービス開始から今年で7年を迎えた人気作。

それゆえ、その軍艦の名前で検索をすると

公式画像はもちろん、ファンアートなどで埋め尽くされてしまうのだ。

荒木氏は、むしろこれを面白いと思ったらしく、自然現象を艦これの

キャラと絡めて説明するツイートをしたところ大人気。

「艦これ気象学」として一つのサブコンテンツとなった。

 

 

幻に終わった島風駆逐艦「秋雨」

 

確かに、帝国海軍の一等駆逐艦命名基準は、自然現象を採用している。

僕はこの天気を秋雨と前述したが

「あれ、そういえば秋雨って駆逐艦なかったよな」

と考えて調べてみた。

確かに、季節でいえば「春雨」や「五月雨」(梅雨のこと)などは

あるが、「秋雨」という駆逐艦はない。

それもそのはず、1941年の第五次艦艇補充計画(マル5計画)では

島風型8隻を建造する予定であったが、その中に「山雨」「夏雨」など共に

「秋雨」も予定されていたのである。

しかし、対米英戦の開戦によって予算確保が難しくなり、結局量産は中止され

島風」は単艦のみの同型艦なしとなった。

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一等駆逐艦島風島風同型艦「秋雨」は実現しなかった(wikipediaより)

だから今の雨を表す駆逐艦は残念ながらないのであるが

季語が秋の「霧雨」なら、海上自衛隊護衛艦「きりさめ」がある。

 

ネタが付きかけた海軍が採った策は

 

それにしても、よくもまあ自然現象の名前が思いつくものである。

ただ、艦名をつける海軍省軍務局はさすがに「ネタ切れ」になってきたらしく

一時期番号で呼ぶようになったのである。

しかし、これは現場で大変不評であったばかりでなく

番号が被って混乱するケースもあり、改善の必要性があった。

そこで明治期以来、3等駆逐艦にも広く天象・気象の名をつけていたところ

1928年には老齢除籍となる艦艇が多くなり、かつ掃海艇などに転籍し

そちらが番号名で呼ばれることとなったことで、数十もの一等駆逐艦向けの

名前が浮いたのである。

そのため、第一号型、第十九号型はそれぞれ神風型、睦月型となった。

駆逐艦研究の草分け的存在である福井静夫氏『特型駆逐艦と私』によると

さらに将来のために、たしか佐佐木信綱先生にだったと思うが

おうかがいを立てたところ、たちどころに次々と数十隻分の

まだ明治以来、採用しない艦名が出てきたので

安心して命名に決したといわれる。

その新艦名とは、深雪、天霧、狭霧、五月雨そのほか

昭和十年以後に完成した多くの新駆逐艦である。

かくて昭和3年8月1日付で、すべての番号名の駆逐艦

固有艦名を付与されたのである。 

 と述べている。ここで出てくる佐佐木信綱とは、帝国学士院で文化勲章

受章した国文学者の佐々木信綱で、戦前のわが国の文壇を代表する一人だ。

ちなみに、深雪(みゆき)とは深く積もった雪の美しさを表現した言葉で

天霧は、霧や雲で空が曇る様子を言い、新古今和歌集にも出てくる。

狭霧は意味を調べると霧としか書いていないのだが

古事記にある「吹き棄つる気吹の狭霧に成れる神の御名は」とあり

弘前大学の吉田比呂子教授は論文「上代人の『気・息』の空間」の中で

これらはすべて生命力のある空間であり場所なのである。

それらを「気」や「息」そして「風」などをより

具体化した形で表現したものである。

としており、自然現象が単に一文字で表せるものではないことを

述べている。国文学者の佐佐木信綱なら、当然そのように考えたであろう。

小型艦である駆逐艦の名前を命名するのに、実はこれほどまでに

大きなストーリーがあったのである。

「提督」の皆さんは、艦これに登場する魅力的な「艦娘」の名前が持つ

意味を調べてみると、新しい発見があるのではないだろうか。