令和に蘇った「アマビエ様」とは?
やはり日本人であるなぁ――。
そう思う現象が全国各地で発生した。
即ち、「アマビエ様」祭り(アマビエチャレンジ)である。
アマビエ様とは、江戸時代に肥後(熊本県)で目撃された妖怪である。
脚が三本あり、髪の毛が異様に長く、体は鱗状、口は尖っているのが特徴。
ある日、海上が光っているのを役人が見つけ、検分したところ
海中からアマビエ様が姿を現した。驚く役人に対し
アマビエ様は「これより6年は豊作を与えよう。疫病も起こるであろうから
その際は我の姿の絵を多くの者に見せよ」と言ったという。
それが、令和の現代にあって、急に流行し出した。
即ち、新型コロナウイルスが蔓延している中で、アマビエ様の力を借り
近年まれに見るこの疫病を鎮めようというものだ。
中には絵を描くだけでは飽き足らず、ぬいぐるみなどのグッズ展開にも
乗り出した個人・企業があるほどだ。
権力者から庶民まで、神や妖怪を祀った
わが国においては、古代より疫病というのは妖怪や悪霊の仕業と考えた。
「悪風」「悪疾」などといい、医者の手当のほかに祈祷も行われた。
例えば「栄華物語」によると、御堂関白・藤原道長が寛仁3年
重病になった。54歳という歳ということもあり
「私は最後のようだ」と諦め、周囲は酷く同様した。
さまざまな祈祷を試した上、道長が剃髪して仏門に入ると
彼の体調は快方に向かい、妖怪たちは酷く残念がったという。
木曾義仲との戦いの際、馬が稲に足を取られて落馬し、そのために討たれた。
実盛は「口惜しや、これもまた運か」と不運を嘆き
死後には害虫「ウンカ」となって自分の邪魔をした稲を食べて農民を
困らせる「悪霊」になったという。そこで、近隣の村々特に西日本では
「サネモリさま」というかかしを立て、村々を練り歩き、悪さをする
妖怪たちを引き連れ、それらを村境まで連れていくのだという。
これを「サネモリ送り」という。柳田国男は「サネ」には「実る」という
字が含まれており、それを「守る(盛)」神に転じさせたという説を唱えた。
このように地域ごとに「妖怪(神霊)」を祀り、天災や疫病から
守ってもらおうという方法はいくらでもある。
宮城県にも伝わる「蛇除け」信仰
山に入る時には「山吹善平さんのお通りだ」と三度唱えれば
蛇除けになると伝わっている。これは昔、山吹善平という人が毒蛇を
飼っていたが、その毒蛇が誤って善平にかみついてしまい、謝罪して
治療したのだという。同じような話が七ヶ浜町花淵浜にも伝わっている。
この地域に住んでいた花淵善平がある日
人骨に引っかかって取れなくなっていた大蛇を助けた際
お礼に蝮除けのお札をもらったのだという。
昔から、われわれは自然現象や動物などを妖怪や神の使いとして
手厚くお祀りし、ご利益を得てきた。
新型コロナウイルスがわが国のやり方で鎮まるかどうかはわからない。
しかし、人々の拠り所としてこれらのお祀りが掘り起こされ
わが国の文化に再び脚光が当てられる。
日本人らしいやり方だとつくづく思う。
アマビエ様も、突然の「出番」にびっくりしているのかもしれない。