研究資金獲得は「産学民連携」の時代へ
国立大学法人の「軍資金集め」が変わりつつある。
既に言うまでもないことだが
わが国の学術研究レベルは、世界でもトップレベルを走っている。
しかし、その研究拠点の一つである国立大学法人は
研究費用の確保に奔走しているのが現状だ。
「国立大学って国立なんだから国から金出るじゃん」
と思われがちだが、残念ながらその認識は改めなければいけない。
2003(平成15)年に施行された国立大学法人法が問題である。
これまで、敷居が高く産学連携が進んでいなかった国立大学の活用を
促進すべく、国立大学を法人化し、国から「独立」させる法律だ。
ところが、法人化したことにより、財源についても大学の負担が大きくなった。
運営交付金等の交付額も
04(平成16)年度は1兆2415億円だったが
18(平成30)年度は1兆971億円と1500億円も減額されている*1。
補助金についても、大部分の項目で減少しており
(一社)国立大学協会は
「高い評価を受けても予算が減額されるなど、事業継続が困難」
と予算の充実と税制上の改正について広く要望している。
外部資金の充実が課題
研究を行うにしても、やはり先立つものが必要だ。
国からの交付金が減少している以上、重要なのは民間企業からの
「外部資金」である。これは民間企業との共同研究を進める際に
企業側から提供される資金をいう。
この額は平成22年度の段階で約142億円だが
ただ、ここ数年で約55億円の増加とはいえ、全国でこの額であるから
大学単位で見たら、さほど大きい額にはなっていない。
「やはり課題は外部資金ですね。大学はボランティアではないので
ぜひ資金の提供にご協力をお願いしたい」とは、国立大学関係者の談である。
クラウドファンディングが学術研究を救う?
ここ数年で注目されているのが、新しい寄附金である。
平成27年度の個人寄附収入は140億円だが
平成28年度は342億円と大幅な増加を示している。
所得税の軽減措置が功を奏したほか、クラウドファンディングが
普及し始めたことが大きい。
クラウドファンディングというと、企業やNPO法人などが実施するものと
見られがちだが、学術研究に関するものも多い。
注目の学術系CF「academist(アカデミスト)」
学術研究資金の調達に特化しているクラウドファンディングが
「academist(アカデミスト)」だ。先述のように運営交付金が減額されている中で
多様な研究を促進するため、5年前にアカデミスト(株)が公開したもの。
研究者が「こういう研究をやりたい」というアイデアを発信し
それに共感したユーザーが資金を出す形式だ。
今年6月には累計流通額が1億円を突破した。
僕も、同サイトで気になる研究があれば「購入」させていただいている。
その中で非常にうまく資金調達に成功した事例が東京大学名誉教授で
(一社)ラ・プロンジェ深海工学会の浦環代表理事による研究プロジェクトだ。
平成29年に五島列島沖に沈んでいる帝国海軍の潜水艦「伊58」の
特定プロジェクトを実施し
目標金額500万円に対して550万円を超える資金を調達した。
https://academist-cf.com/projects/47
特定作業はニコニコ生放送で実況中継されたほか
人気ブラウザゲーム「艦隊これくしょん」には伊58のキャラも出ているため
同ゲームに出演している声優の竹達彩奈さんナレーションによる
帝国海軍の潜水艦の解説番組まで放送
ゲームのユーザーからも広く資金を集めることに成功した。
潜水艦の特定作業に何の意味があるか、という疑問もあろう。
もちろん、「ミリオタが喜ぶ」という側面も大きいのだが
沈没した潜水艦がどのような状態なのかを知ることは造船技術にも活用することが
できる(第二次大戦において、わが国の潜水艦技術は世界トップレベルであった)し
海底に沈んでいる物体を解析する技術は他の海底探査にも活用できる。
さらに、海中から実況できるだけでなく、それを視聴しているユーザーからのコメント
を現場に届ける技術は総務省による次世代衛星通信技術の実証実験の一環でもあり
極めて有意義なプロジェクトだったのである。
ラ・プロンジェ深海工学会は、その後も沈没船の調査プロジェクトなどを実施
僕もその都度、些少ながら協力させていただいている。
学術研究とクラウドファンディングは極めて親和性が高いと思う。
なぜなら、企業やNPO法人などの案件は
商品やイベント参加などのリターンを用意する必要があるが
学術研究の場合、調査報告書を送れば良いわけだし、必要なら研究報告会への
出席権などをリターンにできる。これらは研究者が日常的に行っていることだから
さほど負担も大きくないはずである。
「産学連携」の推進が唱えられて久しい。
しかし、今や「産学民連携」の時代がやってきているといえる。
今後はいかに情報発信を効率的に行い、広くプロジェクトに興味を
持ってもらうかがカギになるであろう。
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