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聖地巡礼に見る秩父市のまちづくりの現状と課題

埼玉県秩父市。山あいの小さな都市には、観光客が殺到するある武器が存在する。
テレビアニメ「あの日見た花の名前を僕たちはまだ知らない(略称あの花)」。
そして、あの花製作陣が再結集し、言葉の大切さを描き出した
映画「心が叫びたがってるんだ。(略称ここさけ)」。
あの花は、実写化されたほか、ここさけではED曲を乃木坂46が担当しているとあって
若者を中心に大ヒットを記録した両作。
8月7日には、「心が叫びたがってるんだ。スペシャルイベント〜秩父ふれあい交流会〜」
秩父市役所前駐車場で開催された。
これはBD購入者特典として、応募券がついてきたのを
ノリと勢いで応募したところ、何かあっさり当選しちゃったのだが
たまたまチケットが手に入った友人と一緒に、初めて秩父市に行ってきた。


埼玉県秩父市は、県の西部に位置する。人口はおよそ6万6000人と
宮城県でいうところの栗原市と同じくらいの人口規模である。
同市内の和銅遺跡からは、極めて純度の高い銅が産出したことから
朝廷に献上され、西暦708年には元号が「和銅」に改められるほどであった*1
周囲を山に囲われた盆地であり、武甲山では石灰石の露天掘りが行われている。
市内から段々になった山の様子を仰ぐことができる。
また、秩父神社門前町として長く栄え、観光業もまた主力産業だが
高齢化率が28%と高い水準で、産業構造も第一位が製造業が21%、宿泊・飲食が10%と
第二次、第三次産業が多数を占めている。
とはいえ秩父市自体が埼玉県の6分の1を占める広範囲の自治体であるため
人口減を迎えるにあたり、どのようなまちづくりを行うのか。大きな課題があるように見受けられた。


仙台からは、仙台宮城IC(東北道)ー岩舟JCT北関東道)ー高崎JCT(関越道)ー花園ICと
実に5時間の長旅である。運転手を務めていただいたK提督に心から御礼を申し上げたい。

さて、秩父市に到着すると、まず目につくのが「道の駅秩父」である。
ここには「あの花」のめんま、あなる、つるこのパネルが設置してあり
ここさけ関連グッズも多数販売している。そのため、テンションが上がっていろいろ買い物をしてしまったが
後でその扱いに困ることになる。
ここさけでは特に舞台となった施設ではないが、現在開催中の「2016夏 揚羽高校スタンプラリー」
スタンプ設置店、台紙がもらえる場所であるため、大勢のファンが列をつくって
スタンプを押していた。

さらに、主人公たちを取り巻く2年2組が一堂に会したワイドパネルも設置されており
ファンとしてみれば本当に嬉しい展示だ。


秩父市には本当にいろいろな観光施設がある。というのも、秩父鉄道の「秩父駅」と
西武鉄道の「秩父駅」の2つが存在しているためで
中心部に近いのは西武電鉄のほうだが、秩父鉄道のほうには秩父神社があることから
昔ながらの商店街が形成されている。
もう一つのポイント地場産センターは、秩父鉄道秩父駅そばにある。

入り口にはメッセージボードがあり、訪れたファンが紙にメッセージを書き
それを貼っていく。大勢の人が貼っていっているので、すでに最初のほうは見られなくなっているほどだ。
ここには、ここさけ、あの花グッズのほか地元の名産品も所狭しを置かれている。
リキュール類も販売してあったが、さすがに荷物が多くなるので、後ほどということになった。
続いて、行ったのが、大慈寺である。ここはここさけの作中において
ヒロインの成瀬順が、主人公の坂上拓実に初めて身の上話を明かすところだ。

従って、ここは聖地しても重要な場所であるといえる。
そんなわけで、この寺に行ったのだが、やはりスゴい人である。
撮影するだけでも一苦労といった具合で、普段は静かな古刹なのだろうが
これほどのファンが来てびっくりしたのではないだろうか。
・・・と思いきや「絵馬 あります」の看板。

実際ここさけのデザインで絵馬を売っていた。
それに願い事を書いて飾ってもよし、お土産として持ち帰ってもよしというわけだ。
商魂たくましいお寺さんなのであった。


続いて、伺ったのが横瀬駅前にある観光情報センターである。
この横瀬駅は、秩父市の隣にある横瀬町にあって、いささか距離がある。

ホームには順のパネルも
横瀬駅はここさけの作中において、仁藤菜月が慌てて駅に走り込むシーンで使われているし
ここから風景となっていた三菱セメントの煙突がちょうど良く見ることができる。


残念ながらこのあたりで時間切れ。
我々は涙を飲んで、市役所前で行われるイベントに向かった。

名物のみそポテトのブースには長蛇の列ができた
イベントでは、水瀬いのりさん、内山昴輝さん、細谷佳正さん、雨宮天さん
村田太志さん、高橋李依さん、石上静香さん、古川慎さん、大山鎬則さん
が出演。最初に印象に残ったシーンと感動したシーンについてそれぞれ選んだのだが
感動したシーンについて細谷さんが切ないシーンを挙げていたことから
「これ感動したシーンですよね!?」と総ツッコミ。
それに対して細谷さんは「悲しいのも感動なんだよ!」と感動の定義について熱く語った。
また、特別講師として、長井龍雪監督、脚本の岡田磨里さん、キャラデザの田中将賀さん、音楽のミト(クラムボン)さん
が登壇し、作品の裏話や、ミュージカルが誕生するまでのいきさつなどについてざっくばらんに語った。
ライブコーナーでは、ミトさんと徳澤青弦カルテットが劇中で使用された曲を演奏。
さらにシークレットゲストとして、歌手の清浦夏実さんが登場
「Harmonia」「Over The Rainvow」などを披露し、観客を魅了。
最後に、キャストによる生アフレコが行われ、見事な演技と
素晴らしい歌声に観客の中には涙を流す人も見られるほど。
フィナーレとして、会場を2つに分け「心は叫んでる」と「あなたの名前呼ぶよ」をそれぞれ熱唱。
会場に集まった3000人もの観客は、歌声を通して心が一つとなっていた。


さて、秩父市に初めて行ったわけだが、まちの取り組みは実に驚嘆すべきものであった。
秩父アニメツーリズム実行委員会を組織し、産学官が一緒になってアニメファンを呼ぼうと
さまざまなPRを行っている。例えばスタンプラリーであったり、パネル展示であったりと

路線バスにはあの花のラッピングも
ここまではよくあるパターンなのだが、龍勢まつりの協賛金を募集し、そのリターンに缶バッジをプレゼントしたり
「ここさけバス停」というオブジェクトをつくってしまったりと
取り組みとしてはとてもよく出来ているといえよう。


ただし、問題はまち全体の活気がないことだ。
彩の国さいたま人づくり広域連合「平成27年度政策課題共同研究報告書」によると
埼玉県の空き家率は10.9%であるのに対し、秩父市は17.4%と抜群に高い。

市役所そばの一等地に空き店舗があるのは寂しい
一方、秩父市の中心部商店街は、空き店舗率が低いことで知られる。
空き店舗率は8%弱で、しかも秩父鉄道秩父駅に近接するみやのかわ商店街は
何と空き店舗が0だというから驚きである。
同商店街が山奥や福祉施設などの買い物難民向けに、「出張商店街」や「ボランティアバンクおたすけ隊」といった
シルバーボランティア制度を設けたため、高齢者の生活を支えることができているのだ。
とはいえ、これも種明かしをしなければならない。
前述の「研究報告書」によると、「秩父地域の数値自体は低いものの、もととなる商店街及び店舗数が少なく
より地域や産業(観光)に密着した店舗が多いため、空き店舗が地域に与える影響は非常に大きいものと考えられる」
と評価している。
すなわち、空き店舗率が少ないとはいえ、商店街自体が少ないのであるから
今後空き店舗が増えた場合、そこに住む住民らが買い物難民に陥りやすいというわけである。


そもそも、秩父市の都市計画によると中心市街地に大型店舗や複合商業施設が存在しており
ナショナルチェーンと地元商店とでは明らかに勝負にならない。
しかも、中心部商店街は道が狭く、自動車でも入りにくいのに対して
大型店はロードサイドに立地し、非常にバランスが悪いのである。
秩父市では、アニメツーリズムにより若年層を中心とした交流人口の獲得に調子を上げているわけだが
これらを市内の文化観光施設だけではなく、中心部商店街に回遊させる仕組みをつくるべきだと提案したい。

*1:通常、元号は代始の際に史書などから引くが、古代は地方から珍しい献上品や吉祥があった場合はそれにより改元することもあった。「養老」「白雉」「天平感宝」「神亀」など